これを私たちは「オプラ・パラドックス」と呼んでいる。いくら自己コントロールに長けた人でも,体重のコントロールには苦労する。彼ら,彼女らはその意志力により,さまざまな形で活躍する。学校や職場で,人間関係においても,自分の内なる感情の世界でも。しかしスリムな体型を保つことに関しては,他の人たちより優れているわけではない。バウマイスターとオランダの研究者たちが自己コントロール能力の高い人を分析したところ,彼らは体重のコントロールについても平均以上の成果をあげるが,その差は他の分野で見られるほど顕著ではなかった。このパターンは減量プログラムに参加している肥満の大学生の間でも見られた。それはバウマイスターとジョイス・エルリンガー,ウィル・クレシオーニ,そしてフロリダ大学の研究者たちが大学生を対象に行なった実験で,プログラムが始まったばかりのころは,性格診断テストで自己コントロール能力が低い学生に比べると,始めた段階での体重もやや少なく,運動もしていた。そして12週間のプログラムを進める間に,その優位性は高まった。それは彼らが食事制限や運動量の増加というルールをきちんと守れたからだ。しかし自制心が体重コントロールに役立つとはいえ,実験の前にも,実験中でも,その違いはさほど大きくないようだった。自己コントロール能力が低いより高いほうが有利だ。しかしそれほど大きな差は生じない。
プログラム終了後に学生たちの追跡調査を行なえば,ほとんどの学生はすぐに体重が増加し,オプラ・ウィンフリーをはじめ,多くのダイエット挑戦者と同じ道をたどったという結果が出るのは間違いないだろう。自己コントロール能力はエクササイズの習慣を維持するのに役立つが,エクササイズをすれば確実に減量できるわけではない(しかし自己コントロール能力は,多くの理由からやはり価値のあるものだ)。自己コントロール能力が高かろうと低かろうと,エクササイズをしてもしなくても,ダイエットに挑戦しても,体重を落としてそれをずっと維持できる可能性は少ない。
ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.275-276
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)
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