目標を決めるときは,心理学で言うところの「計画錯誤」に気をつけよう。若い学生からベテランの企業役員まで,誰でもこの症状に冒される。ハイウェーや建物が,予定より6か月早く完成したという話を聞いたことなどあるだろうか?予定は遅れ,予算はオーバーするのがふつうだ。
計画錯誤については,学位論文を書いている大学4年生を対象にした実験で数値化されている。ロジャー・ビューラーという心理学者と同僚たちは,論文を書いている学生にいつごろ書き終わるか尋ね,最短のケースと最長のケースを予測してもらった。学生たちが予想した日数は平均34日だったが,実際かかった時間はその2倍近くの56日だった。最短のケースの日数で書き終えた学生は,ほんの一握りしかいなかった。最長のケースは,すべてがうまくいかないという前提で考えたスケジュールなのだから,守るのはたやすいだろう。すべてがうまくいかないことはめったにないのだから。ところがそれは違った。最長のケースと予想した日数で書き上げた学生は,半分もいなかったのだ。計画錯誤は誰でも陥る可能性があるが,どたんばになって集中的に仕事を終わらせる先延ばし常習者にとっては,大きな打撃となる。締め切り前に相当な時間を取っていれば,その戦略もうまくいくかもしれないが,そんなことはしないだろう。仕事にかかる時間を少なく見積もりすぎて,あとになってじゅうぶんな時間がないことに気づく。
ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.314-315
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)
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