多くのアメリカ人は,世の中のルールが機能しなくなってきているのではないかという心配を口にしている。社会は拠り所とすべきモラルの中心を失っており,現代のアメリカ文化は根本的な価値を取り戻す必要があるというのだ。もちろん,何をもって“根本的な価値”とするかについては人によって異なるわけだが,ともかく美徳や規律についての本がつぎつぎと出版され,ベストセラーになっている。政治家が演説で使うレトリックには「伝統的な価値に戻れ」とか「個人の責任」などの言葉が混じり,それらが失われたのは人々を甘やかす世の風潮のせいだと主張する人々もいる。彼らによれば,そういう風潮が悪い行いを正当化する連中を増長させているのであり,そのために最近では犯罪行為を働いても「虐待されて育ったせいだ」などのさまざまな泣き言をならべ,自分の責任を逃れようとする人間が増えているという。そして,夫の暴力から生理前のヒステリーに至るまで,あらゆることを自分がした悪い行いの言い逃れに使おうとする態度がまかり通っているというのである。
ドナルド・W・ブラック 玉置 悟(訳) (2002). 社会悪のルーツ ASP(反社会的人格障害)の謎を解く 毎日新聞社 p.31
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