彼らが狙いをつけたのは国立大学だった。研究費提供などで国立大学の研究機能を通産省の影響下に置き,その研究成果を経済的に利用して新しい成長戦略を描くのが目的である。それには国立大学を文部省から引き離す法人化が不可欠であり,橋本政権の行革路線に乗じてさまざまな画策がなされた。
しかし,学習産業やスポーツ産業,文化産業とは違い国立大学は文部行政の本丸である。文部省も黙ってはいない。そこで揺さぶりをかけるために仕掛けられたのが「学力低下」騒動だった。『分数ができない大学生』(東洋経済新報社)なるセンセーショナルな本を出版した学者たちを,通産省と関係の深い研究所に集めて研究費を渡し,文部省の政策は信用できないとのキャンペーンを張らせたのである。
その甲斐あってか,国立大学は国立大学法人という形で04年に法人化する。だが彼らの誤算は,国立大学の保守性だった。文部省に批判的な教官でさえ,通産省に対してはもっと激しい警戒感を持っていた。経済界に奉仕するような提案にうかうか乗るような気配はほとんど現れず,国立大学巻き込み計画は,あえなく頓挫する。
寺脇 研 (2013). 文部科学省:「三流官庁」の知られざる素顔 中央公論新社 pp.108-109
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