ただ,少しだけ懸念を述べておきたい。
ひとつは,「役人は黙っておれ」式の政治主導が強調されるあまり,せっかく政策官庁らしい前向きの考え方になってきていたのがふたたび消極的な物言わぬ雰囲気になるおそれはないかとの心配だ。室長・企画官クラスの中堅キャリアから,予算を獲得,維持する人ばかりが評価されているのではないかとの不満を耳にした。それでは,政策館長化以前に戻ってしまうではないか。
もうひとつは,省庁統合により,それまでの各省庁間の友好関係が一度ご破算になったことだ。たとえば文部省と厚生省,文部省と労働省の親しい仲が文部科学省と厚生労働省になるとそのまま受け継がれるわけにはいかない面が出てくる。局長クラス以上の高級幹部になればなるほど,文部科学省なら科学技術分野への配慮もしなければならないし,厚生労働省なら旧厚生省は労働分野を,旧労働省は厚生分野を意識せざるを得ない。何より,統合後の内部融和のほうを優先しなければならない事情もあろう。
そのために,90年代はじめに課長補佐,室長・企画官クラスで関係を芽生えさせ,そのメンバーが課長,部長・審議官,局長,さらには次官となっていく中でがっちり結びついていたものが,一旦途切れてしまったように見える。それをぜひふたたび構築し,府省庁の枠を越えて政策を発想できるようにしてほしいのである。省庁再編の混乱も落ち着き,新しい各府省庁の体制もようやく固まってきた現在,文部科学省の課長補佐,室長・企画官クラスが他省庁の同年代と積極的に接触し,交友を深めてくれることを願う。
寺脇 研 (2013). 文部科学省:「三流官庁」の知られざる素顔 中央公論新社 pp.113-114
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