それは,民主党政権によって10年度から実施された高校授業無償化も同じである。授業料が無償になるという話だから,国民の中に反対意見はほとんどない。そのために説明が不十分になってしまったのだろう。親の所得と関係なくすべての生徒を対象にすることの意味が,国民にも高校現場にも生徒にも,いや都道府県教育委員会にさえきちんと伝わっていなかった。
これは,親と関係なく生徒ひとりひとりに高校で学習する機会を付与する生涯学習政策なのである。すべての生徒に学習権を保証し,社会全体のおかげで学んでいると自覚してもらい将来公共に還元する気持ちになってもらう「新しい公共」概念に基づいている。それが,単なるバラマキと思われてしまったために,自民党政権になると,いともたやすく親の所得制限をかけ所得の低い家庭の子どもにだけ適用する福祉政策にすり替えられてしまった。14年度からは年収910万円未満の家庭の子どもだけが無償ということになりそうだ。
寺脇 研 (2013). 文部科学省:「三流官庁」の知られざる素顔 中央公論新社 pp.132
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