教育委員会制度が,地方教育行政における政治的中立性を守るための装置であることは広く知られている。首長が直接教育行政を担当するシステムでは,政治家首長が変わるたびに大規模な方針転換が行われかねない。また,首長が最初の任期4年で成果を出すことにとらわれると,目先の短期的効果ばかりを追ってしまう。
そこで,別途公選による教育委員が構成する教育委員会に権限を委ね,政治に影響されない形で中長期的な視点から教育行政を展開することにしたのである。教育は,すぐには成果が出ない。中長期的な見通しが必要だ。この役割は,委員の選任が公選制から首長による任命になっても変わらず発揮されている。教育委員の任期は首長と同じく4年であり任命時期がひとりひとり別であるため,新しく当選した首長が教育委員を総入れ替えするわけにはいかず,当面は前任者の任命した委員を引き続き抱えねばならない仕組みになっている。首長の独走には歯止めがかかる。
昨今流行の教育委員会廃止論は,一部の教育委員会が職務怠慢とあげつらわれても仕方ないようなていたらくであるという見えやすくわかりやすい理由に基づいている。だから,つい世論も引きずられてしまう。廃止論者は,政治的中立性の確保と中長期的視点という教育委員会の根本的な役割を忘れているかのようだ。いや,言い出しているのは当の首長なのだから,それがわかっていながら確信犯で自分の思うがままに教育行政を操りたいのかもしれない。
寺脇 研 (2013). 文部科学省:「三流官庁」の知られざる素顔 中央公論新社 pp.240-241
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