当時,私は化学の研究を仕事にしたいと思っていた。そうなると,大学教授くらいしか思いつく職業がなかった。私のこの希望は,生物学好きの父にとっては,まだやや不本意のようだった。でも,化学は“本物の科学”だからと納得してくれた。大学教授になるためには,最低でも大学院に進学しなければならなかったが,デヴィッドがまだ博士論文を書き終えていなかったため,私はMITのあるケンブリッジを離れたくなかった。なので,私はハーバードの大学院に出願書類を出したが,友人たちには「やめた方がいい,気でも触れたか」と言われてしまった。言うまでもなく,ハーバードの化学研究科は世界的に見てもトップクラスの研究機関だ。しかし,世界的に見ても男尊女卑の風潮が強いことでも有名なのだ(かなりあとになってから知ったことだが,同様の研究機関としては自殺率も非常に高いらしい。私は無事に生き延びたが,あのすごいプレッシャーとストレスを考えると,納得できる)。
アイリーン・M・ペパーバーグ 佐柳信男(訳) (2010). アレックスと私 幻冬舎 pp.66
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