言語は,科学的にもそうだが,感情的にも論争の絶えないテーマだ。一部の科学者たち,そして一般人の中にも,言語は人間だけに与えられた神聖なものだという考えが根強い。そういう人たちにとっては,言語こそが「我々」(人間)と「彼ら」(それ以外の動物)を根本的に区別するものなのだ。また,これは専門家の間での話だが,「言語」をどのように定義するべきなのかという問題も長く論争が続いている。たとえば,野生生物は互いにコミュニケーションを取り合う例が多く知れらているし,多くの場合は音声でのコミュニケーションだが,これは言語の一種ではないのか?などといった議論をはじめると,泥沼にはまりかねない。ここでは単にこのような意見のぶつかり合いが激しくなっていた時期だったということを言いたかっただけなので,今はこれ以上詳しく書くことはやめておく。
アイリーン・M・ペパーバーグ 佐柳信男(訳) (2010). アレックスと私 幻冬舎 pp.111
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