アレックスはどのようにして「アイム・ソーリー」を使うようになったのか。研究費申請用紙の事件の何日か前に,私とアレックスは研究室でのんびりしていた。私はいすに座ってコーヒーを飲み,アレックスは部屋に作った止まり木で羽づくろいをしたり,満足そうな声を出したりしていた。私は,洗面所に行くときにコーヒーカップを止まり木の台座に置いた。戻ると,アレックスが床にこぼれたコーヒーの中でピチャピチャと歩き回っていた。まわりには,割れたカップの破片が散らかっていた。私は,アレックスがケガをしてしまうのではないかとパニックになり,「何をしたの!」と怒鳴ってしまった。冷静に考えると,おそらくアレックスが止まり木から飛び立ち,その弾みで台座のカップが床に落ちてしまったのだろう。単純な事故である。しかし私は,おろかなのは自分の方だと気づくまで怒鳴り続けてしまった。我に返り,アレックスがケガをしていないかどうかを確認するためにかがんだ。そしてこのときに私が「アイム・ソーリー……アイム・ソーリー」とアレックスに謝ったのだ。このことからアレックスは,誰かが怒って緊張した危険な場面をやわらげるために「アイム・ソーリー」が使われることを学んだのだろう。それを研究費申請用紙事件で私がバカみたいに怒鳴った場面で早速応用したのだ。まったく,どっちがバード・ブレインなのか。
アイリーン・M・ペパーバーグ 佐柳信男(訳) (2010). アレックスと私 幻冬舎 pp.124-125
PR