要塞のように堅強だった人間の優位性を主張する考え方は,1980年代に入ると崩されはじめた。それまでは,道具を使うのは人間だけだと考えられていた。しかし,ジェーン・グドールは,研究していたチンパンジーたちが枝や葉を道具として使うことを発見した。そこで,「道具を作るのは人間だけ」だと人間の優位性を主張する人たちは言うようになった。ところが,グドールやその他の研究者たちが,こんどは動物も道具をつくることを発見した。すると,「人間だけが言語を使う」ということが強調されるようになった。しかし,これに対しても,人間の言語の要素を含むコミュニケーション様式を持つほ乳類がいることが明らかになった。このように,人間以外の動物が“人間に特有”だと思われていた能力を持っていることが示されるたびに,人間は他の生物よりも優等だという主張を守ろうとする人たちは定義を変更して対抗した。まるで試合中にゴールの位置を変えるかのようなやり方だ。
アイリーン・M・ペパーバーグ 佐柳信男(訳) (2010). アレックスと私 幻冬舎 pp.280-281
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