アレックスが私たちに残してくれた一番大きな教訓は,自然界の中におけるホモ・サピエンスの位置づけについてのものだ。アレックスもその重要な一翼を担った動物認知研究の革命は,人間は自分たちが長らく思っていたほど特殊な存在ではないことを私たちに示した。私たちは,自然界の他の生物より優位ではないし,人間が自然界の中で特別な存在だという考え方は,もはや科学的に弁護できるものではない。私たち人間は自然界を超越した存在なのではなく,自然界の一部を構成する存在にすぎないのだ。そして,今までの“自然を超越している”という思い込みは,とても危険なものだった。その思い込みのせいで,人間は自然界のあらゆるもの——動物,植物,そして鉱物など——をいくら搾取しても何も不都合はないという幻想を抱くようになってしまった。そして,今になって貧困,飢餓,気候変動などといったたくさんの不都合が人間にはね返ってきているのだ。
アイリーン・M・ペパーバーグ 佐柳信男(訳) (2010). アレックスと私 幻冬舎 pp.286
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