テーマを示唆するに当たり,教員は2つの異なった基準に従うことができる。熟知しているテーマ,弟子を容易に指導してやれるようなテーマを指示するか,それとも,十分には知らないテーマ,もっと知りたいと思っているテーマを指示するか,のいずれかである。
はっきりさせておきたいことは,見かけとは異なって,この後者の基準の方が正当かつおおらかだという点である。教員はこういう論文を指導することにより,自らも固有の視界を拡大せざるを得なくなるだろうと思っている。それというのも,学位志願者の仕事を十分に判断し,彼の作業中に助けてやろうと欲すれば,当然,何か新しい事柄に従事しなければならないであろうからだ。通常,教員がこの後者の道を選ぶ場合には,学位志願者を信頼しているからであり,一般には,彼に対して,そのテーマが教員本人にとっても斬新で,これの掘り下げに興味を持っていることをはっきりと語るものである。
ウンベルト・エコ 谷口 勇(訳) (1991). 論文作法—調査・研究・執筆の技術と手順— 而立書房 pp.54
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