人間には単発性の者と多発性の者とがいる。単発型人間は,一つのことだけをその都度,着手したり終えたりすると,仕事がはかどる。こういう人間は音楽を聴きながら読むことはできないし,ある小説を中断して他の小説を読むことができない。そんなことをすれば,話の筋道を見失ってしまうからだ。極端な場合には,ひげをそったり,化粧したりしている間は,質問に答えることもできない。
多発型人間は全く逆である。こういう人間はさまざまな関心が一度に進行した場合に初めて,仕事がはかどる。そして,一つのことだけに没頭すると,退屈さに打ちのめされて,しょげ返る。単発型人間はよりきちょうめんだが,往々,空想力に乏しいことがある。多発型人間はより創造的だが,往々ずぼらで,気まぐれなことがある。しかし,偉人たちの伝記を調べにかかると,多発型の者も単発型の者もいたことが分かるであろう。
ウンベルト・エコ 谷口 勇(訳) (1991). 論文作法—調査・研究・執筆の技術と手順— 而立書房 pp.130
PR