農業がはじまって,豊作の年には生き残りに最低限必要なものを超える余裕が,ごくわずかではあっても生み出せるようになった。そして,遊牧の旅を続けていた人類がひとつの村に定住し,近くの農地を耕すようにもなった。要するに,農業がはじまって,まったく新しい生活の方法が生まれ,これがゆっくりと世界各地に広まっていったのである。
ときおりわずかな余裕を生み出せるようになって,不作のときへの備えをわずかでも蓄えることが可能になった。しかしやがて,兵士や僧侶,徴税人をしたがえた武将,貴族,王などの支配者層が経済的余裕の一部が全体を支配できるようにもなり,支配した富を使って王国を作り,自分たちの贅沢な生活を支えるようになった。
支配者層は,壮大な王宮や聖堂を建てることができた。狩猟を娯楽にすることもできた。土地と奴隷や農奴を獲得して経済的余裕をさらに生み出すために,戦争をする力をもつようになり,実際にも頻繁に戦争をするようになった。こうして増やした経済的余裕によって,画家や音楽家,建築家や魔術師を宮廷で養えるようになった。その一方で農民は飢えに苦しみ,死んでいったのだが。
アルビン・トフラー&ハイジ・トフラー (2006). 富の未来 上 講談社 pp.56
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