キリスト教神学には「無謬説」という言葉がある。この説を信じる人は,2千年にわたって解釈と翻訳にさまざまな問題があったにもかかわらず,聖書には誤りはなく,その言葉のひとつひとつを字義通りに理解しなければならないと主張する。
経済学にも無謬論者がいる。経済理論では説明がつかない事実,不思議な事実,矛盾する事実がさまざまあるにもかかわらず,実際には何も変わっていないと主張する。デジタル革命と知識経済への移行が経済に与えた影響は,「基礎的条件」の水準でみればごく小さいと主張する。
アメリカの大手投資信託会社の幹部がヨーロッパの石油化学産業の経営者会議で,金融の世界にはいつでも上昇と下降があるのだから,何も変わっていないと語った。商務省経済分析部は重要性が下がりつづけている経済指標の精度を高めるために努力している部門だが,同部のブレント・モールトンは筆者に,「経済はいまも以前と変わっていない」と助言した。
だが,表面にみえる基礎的条件から,もっと深い部分にある基礎的条件に視点を移すと,こうした幻想はすぐに吹き飛ぶ。経済が「以前と変わっていない」という見方の誤りをもっとも説得力ある形で示しているのは,この深い水準での動きである。現在,富を生み出す構造の全体が揺さぶられており,今後さらに大きな変化が来ることが示されているのである。
アルビン・トフラー&ハイジ・トフラー (2006). 富の未来 上 講談社 pp.65-66
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