いまでは知識はきわめて多数の専門分野に分かれ,各専門分野がさらに多数の分野,下位分野に分かれているので,大学では何百もの科目を整然と分類しており,アル・ファーラービーの階層型に似た分類方法をとっている。学界での権威と予算配分という面で,たとえば自然科学は一段上に位置づけられており,社会科学は「ソフト」すぎるとされて,自然科学より下だとみられている。いまでは生物学にこの権威ある地位を奪われようとしている。社会科学の中では経済学が頂点に位置するとみられており,これは数学を駆使して,もっとも「ハード」で自然科学に近いからである(あるいは近いと主張しているからである)。しかし,この構造は自らの重みに耐えかねて崩壊しかねない状況にある。
いまでは専門分野を超える知識を必要とする仕事が増えており,このため,宇宙生物学,生物物理学,環境工学,法会計学など,2分野にわたる専門知識が求められるようになってきた。なかにはニューロ心理薬理学のように,3分野にわたる専門知識が求められる仕事すらある。
やがて,専門知識が求められる分野の数がどんどん増えていくのは明らかなように思える。知識がそのときの必要に応じて一時的で非階層型の形態へと組織化される結果,永久に続くとも思えた専門分野と階層構造すら消える可能性がある。そうなったとき,「知りうることの地図」は,いくつものパターンがたえず変化しながら点滅しているものになる。
アルビン・トフラー&ハイジ・トフラー (2006). 富の未来 上 講談社 pp.275-276
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