変化の教えは既存の制度と秩序にとってとくに危険である。もともと右翼的でも左翼的でもないし,民主主義的でも独裁主義的でもないからだ。この教えが意味するのは,どの社会も,どの生活様式も,どのような信念すらも,本来一時的にすぎないということである。
これはアダム・スミスやカール・マルクスのメッセージではない。フランス革命やアメリカ独立戦争のメッセージでもない。もっとも革新的な哲学者,ヘラクレイトスのメッセージである。ヘラクレイトスの有名な言葉が変化の教えを要約している。「同じ川に二度足を踏み入れることはできない。二度目には川が変化しているからだ」。すべては過程である。万物は流転する。
ヘラクレイトスは要するに,歴史のなかでみれば,社会制度がすべてそうであるように,思想や宗教もすべて一時的なものだと主張したことになる。そしてこれこそ,アメリカが発している真のメッセージだ。そしてもっと深いレベルで,数十億人の睡眠を妨げ,悪夢をもたらしているのは,このメッセージなのだ。
アルビン・トフラー&ハイジ・トフラー (2006). 富の未来 下 講談社 pp.23
PR