塩分のとりすぎは血圧を上げるという話を,あなたも耳にしたことはないだろうか。この話はとりわけアフリカ系アメリカ人によく当てはまる。アフリカ系アメリカ人の血圧は,非常に塩に反応しやすいのだ。最近では「塩分」もまた悪者あつかいされているが,塩は体内の化学反応にはなくてはならない物質だ。塩は体液バランスを整え,神経細胞の機能を調節する。人間は塩なしに生きてはいけない。しかし,血圧が塩に反応しやすい人が塩分の高い食生活をしていれば高血圧になる。
奴隷貿易でアフリカ人がその意に反してアメリカに連れてこられたとき,その移送状態は想像を絶するひどいものだった。食べ物をあたえられないどころか,十分な水さえあたえられなかった。アフリカ人はどんどん死んでいった。その中で,たまたま生まれながらに体内の塩分濃度を保つことができる人は生き延びた。体に余分な塩があったおかげで致命的な脱水症状に陥らずにすんだからだ。こう考えると,奴隷貿易はアフリカ系アメリカ人に塩分保持能力を高める「不自然な」淘汰を強いたことになる。その子孫が現代の塩分の多い食生活に接すると,あっというまに高血圧になる。
シャロン・モアレム,ジョナサン・プリンス 矢野真千子(訳) (2007). 迷惑な進化 病気の遺伝子はどこから来るのか 日本放送出版協会 p.90
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