有機農業がときに諸刃の剣になることを説明するには,セロリがいい例になる。セロリはソラレンという物質を作って防衛している。ソラレンはDNAや組織を傷つける毒で,人間にたいしては皮膚の紫外線への感受性を高める性質をもつ。ただしこの毒は,日光を浴びてはじめて活性化する。ある種の虫はこの毒を避けるために,自分の体を葉でくるんで日光に当たらないようにして,暗闇の中で数日間をすごしながら葉を存分に食い荒らしたあと,お腹を膨らませて外に出てくるという。
あなたがボウル一杯のセロリスープを飲んだあとにコレステロールを下げるために日焼けサロンに行くというのでもないかぎり,家庭菜園のセロリやスーパーで買ってきたセロリを心配する必要はない。ソラレンが危害をあたえるとすれば,長期にわたって大量のセロリを取り扱う人間にたいしてだ。セロリの収穫にたずさわる人の多くは皮膚炎を起こしている。
セロリの特徴は,自分が攻撃されていると感じると急ピッチでソラレンの大量生産をはじめることだ。茎に傷が入ったセロリは無傷のセロリにくらべて100倍ものソラレンが含まれている。合成殺虫剤を使っている農家というのは,基本的には植物を敵の攻撃から守るためにそれを使っている(もっとも,殺虫剤を使うことでさまざまな別の問題も生み出しているわけだが,それについてはここでは割愛する)。有機栽培農家は殺虫剤を使わない。つまり,虫やカビの攻撃でセロリの茎が傷つくのをそのままにして,ソラレンの大量生産を野放しにしていることになる。殺虫剤の毒を減らそうとあらゆる努力をしている有機農家は,結果的に植物の天然の毒を増やしているというわけだ。
いやはや,生き物の世界は複雑だ。
シャロン・モアレム,ジョナサン・プリンス 矢野真千子(訳) (2007). 迷惑な進化 病気の遺伝子はどこから来るのか 日本放送出版協会 p.114-115.
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