フロイトは,少なくとも2つの非常に重要な記憶の特徴を発見した。第1に,いわば意識に接続できない心の領域に埋められた,記憶の「痕跡」が存在するようであることを発見した。第2に,こうした痕跡の存在はそれ自体が非常に重要であることは間違いないが——過去は現在と未来によって全部が取って代わられるのではなく,何らかの仕方で保たれる,という考えを証明しているので——,さらに重要なのは,これらの痕跡に「付け加えられた」意味が,時間とともにいかに変化したかという事実の発見である。フロイトはこの事実を自身の著作の中に矛盾なく収めることに困難を覚えていたのであるが,彼はこうして人間の過去は静止した「こと」ではなく,一種のテクストであること,進行中の経験により順次書き直されるテクストであることを,示すのに貢献したのである。さらに,重ねて言うが,人間の生は単なる具体的な因果の連鎖として,直線上に理解することはできない。そうではなく,それは繰り返し,戻り,過去は経験の進展によって多かれ少なかれ変えられるのである。
マーク・フリーマン 鈴木聡志(訳) (2014). 後知恵:過去を振り返ることの希望と危うさ 新曜社 pp.94-95
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