我が国の伝統的な会議風景は次のとおりだ。まず,担当部署のヘッドが,優秀な部下のつくったペーパーにもとづき,その日の議題となっている案件の説明を始める。基本的にはペーパーの棒読みだが,鉛筆でメモ書きされた補足事項をそれらしくコメントすることもある。説明が終わると議長(または司会者)が「何か質問やご意見は?」と聞くが,すぐには手が上がらない。少し間をおいてから,まず1人が「意見というほどではないが」という前口上でボソボソと話し始める。その後,2〜3名が発言するが,質問とも意見ともつかない差し障りのない発言が続いて質疑は終了する。最後に議長がなにかムニャムニャとしゃべったあとに,「では,そういうことで」といって終了する。
「では,そういうこと」とは,一体何がどういうことなのか,外国人の社外役員がいたら,どのように訳すのだろうか。出席者から反対らしい意見が出ないのは,場を乱さないようにしたいという気づかいもあるだろう。事前の根回しが効いているのかもしれない。
しかし,本当の理由はそんなことではないように思う。要するに参加者全員がほとんど同じ考えをもち,反対する理由がないのだ。もっと言えば,仮に違う意見だったとしても,その違いはわずかで,相手の言いたいこともそれなりによく理解できてしまうので,あえてチャチャを入れるのも大人気ないと感じているのである。
渡部昭彦 (2014). 日本の人事は社風で決まる:出世と左遷を決める暗黙知の正体 ダイヤモンド社 pp.73-74
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