どれもこれも目標管理制度が「絶対評価」を建前としているところから生じる問題点だ。絶対評価というのは全員が目標を達成すれば全員がSでもよいという考え方だ。そうなると全員にボーナスを奮発しなければならない。本当に全員がSの業績であれば,少なくとも部署としては儲かっているはずなので,ボーナスの奮発はOKだ。
では,「寛大化」のなかで絶対評価をすると,どうなるだろうか。いわゆる「合成の誤謬」が発生し,実際の収益に見合わない支出によって赤字になってしまう。
このような問題に対して,人事部は何を考えたか。じつは絶対評価の目標管理制度について「相対評価で運用する」ということだ。論理的な無謬性にこだわる人事部として,表立っては相対評価と口にできない。そのため評価者からこそっと部下の順位表をもらったり,人事ヒヤリングと称して口頭で聞いたりしているのだ。会社によっては部署の業績に応じたボーナスファンドを部長に委ね,その裁量で部下に配るという方法をとるところもある。これも評価の相対化のバリエーションである。
いずれにせよ,表向きは全員Sでもじつは順番がついていて,ボーナスの金額にも差がある。そもそもある人がどのくらい優秀かを判断するのは極めてむずかしいが,AさんとBさんのどちらが優秀かを決めるのは容易だ。相対評価はじつは現実的で優れた方法なのだ。
渡部昭彦 (2014). 日本の人事は社風で決まる:出世と左遷を決める暗黙知の正体 ダイヤモンド社 pp.122-123
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