実際に入社面接で志望動機をたずねると,大半の応募者が「御社の社風にひかれて」といったことを答える。特に新卒採用の学生は,どこかの会社で口にするという意味では概ね100%だろう。志望動機の代表選手といった感じで新鮮味には欠けるものの,無難な答えであることは間違いない。
「御社の将来性にひかれたからです」と学生が明るく答えても,会社の内情はいろいろだから,面接官も心のなかでは「そんな甘くはないよ」と独りごちているだろう。だからといって「高い給与水準と楽な仕事に魅力を感じます」というすべての学生が持つ本音中の本音を言ってしまえば,もちろん即アウトだ。
一方,「志望するのは御社の社風に魅せられたからです」と言われて,悪い気持ちを持つ面接官はまずいない。業績が良かろうが悪かろうが,面接をする立場の人は自分の会社を好きだからだ。おそらく「どこで当社の社風を知る機会がありましたか」という質問を続けるが,それに対しては「御社におられる大学の先輩から話を聞きました」「就職セミナーで御社の方が話をされる中で感じました」などいくつかの回答パターンがある。回答の内容は何でもかまわない。「社風」を会社選択の基準に据えていること自体が大切だからだ。
社風を理由にする以上,少なくとも会社の面々と協調してやっていこうとする意思はあるに違いない。疑ってかかれば,社風を志望理由として挙げること自体も,マニュアル本の模範解答かもしれない。それはそれでやはりいいのである。なぜなら,会社は言われるまでもなく,「社風」に合うか合わないかを実質的な選考基準にしているからだ。
渡部昭彦 (2014). 日本の人事は社風で決まる:出世と左遷を決める暗黙知の正体 ダイヤモンド社 pp.161-162
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