1688年,不安感が世界中に広がり,郷愁がつのったあまり涙するということが多くの人に起こった。
この感情のうねりを最初に発見したのはスイスの医師ヨハネス・ホーファーである。彼は,ベルンで学びながらも,ふるさとバーゼルが恋しくてたまらないという青年の治療に成功した。もうひとりの患者はベルンに出てきた田舎の少女で,激しく転倒して昏睡状態に陥っていた。目を覚まして見慣れないベッドに寝ていることに気づくと,彼女は両親に会いたいと言い続け「家に帰りたい。家に帰りたい」と訴えた。
たまたま類似した出来事が続いたことから,「ノスタルジア」という新しい病名が生まれた。ノスタルジアとは「ふるさと」を意味するギリシア語の「ノソス」と「悲嘆」を意味する「アルゴス」から作られた言葉である。この病気は,1700年までには世界中の医師たちに受け入れられ,その原因と治療について医学書や医学雑誌で激しく議論されていた。
ネイサン・ベロフスキー 伊藤はるみ(訳) (2014). 「最悪」の医療の歴史 原書房 pp.94-95
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