「イギリスのヒポクラテス」と呼ばれるトーマス・サイデンハムも顕微鏡にはまったく興味を示さず,解剖学にもほとんど関心がなかった。自然は決してその秘密を明かしてはくれないし,いずれにしても医学研究は「物の外側」だけに限るべきだというのが彼の見解だった。みずからも研究に顕微鏡を使った先駆者だったヤン・スワンメルダムも,神の御業をあまりに間近から見ることは,自然に対する人間の畏敬の念を減ずることにつながると考えた。そして彼も手を引いてしまった。
構成の医学史家は,初期の顕微鏡は完成度が低く,あまり使い物にならなかったのではないかと主張した。この仮説の真偽をめぐり,1989年にレーウェンフックの9台の顕微鏡がテストされたが,どれも現代の初心者向けモデルに勝るとも劣らない性能であることが証明された。
ネイサン・ベロフスキー 伊藤はるみ(訳) (2014). 「最悪」の医療の歴史 原書房 pp.118-119
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