フランス王ルイ11世はペットの犬に浣腸させ,ルイ13世は1年に212回の浣腸,215回の嘔吐療法,47回の瀉血を受けた。ルイ14世は浣腸王ともいうべき王様で,生涯で2000回,ときには1日4回の浣腸を受けた。たしかに効果はあったようだ——ルイ14世は72年間王位にあり,スペイン継承戦争をなんとか戦いぬき,封建制の名残りを一掃したのだから。
ヴェルサイユの豪壮な宮殿で,侍女たち——浣腸剤をこっそり持ち出すことは厳しく禁じられていた——はご主人様のために浣腸剤を配合し,色や香りをつけるのだった。ご主人様の箪笥は特別注文の銀製肝腸管でふくらんでいる。肝腸管は紐のついたヴェルヴェットの袋に入っている。鋭い頭と健康的な肌のつやを保つため,王家につらなる人々は最低でも1日1回は浣腸するよう勧められていた。夕食後の寝酒がわりの1回は別として。
ネイサン・ベロフスキー 伊藤はるみ(訳) (2014). 「最悪」の医療の歴史 原書房 pp.126
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