1830年代には,血友病は血液が凝固できないという損傷のせいで起こることを専門家が突き止めていたが,医師はこの単純な事実を75年間も見逃していた。その間,血友病患者は,ちょっとした不便を解消するための手術——たとえば膝の手術——を勧められては,それが命取りになることもあったのである。
多くの医師は,患者に出るだけの血を出しつくさせるのがいちばんいいと考えていた。「血が止まらない患者を治療するいちばんいい方法のひとつは放っておくことだ」とある主要医学誌は書いていた。ある病院は,したに切り傷を負った3歳の少年にまさにその方法をとった。「彼の口から血が噴き出た……出血は7日間続き,少年は蝋人形のようになった……」。そして少年は死んだ。
もっと積極的な治療を試みた医師もいた。有名なパリのサルペトリエール病院の医師たちはある血友病患者の肛門に25匹のヒルを吸い付かせた。この患者も命を落とした。
ネイサン・ベロフスキー 伊藤はるみ(訳) (2014). 「最悪」の医療の歴史 原書房 pp.152-153
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