1851年の『ニューオーリーンズ・メディカル・アンド・サージカル・ジャーナル』で,コレラの研究で名高いサミュエル・カートライト博士は新種の疾患「ドラペトマニア(家出狂)」を発見したと報告した。その主な症状は「逃亡という多くの黒人が行うやっかいな行動」だった。それと関連する疾患「ディザエステジア・アエティオピカ(怠惰病)」は過度の自由が原因だと考えられた。
南部の医師たちの多くは,黒人は痛みを感じるとしてもごくわずかだと信じていた。1854年の『ヴァージニア・メディカル・アンド・サージカル・ジャーナル』に,ある医師が奴隷の肺炎を治療するため,奴隷の背骨に20リットル近い熱湯をかけたと書いている。この医師は,治療が「いくぶん感覚を呼び覚ましたらしく,奴隷は叫び声をあげようとした」ことに驚いた。『メンフィス・メディカル・レコーダー』は「奇妙な特性」に関する記事で,アフリカ系アメリカ人は聴覚,視覚,嗅覚は優れているが,痛みの感覚は非常に弱いと決めつけている。「彼らは驚くべき従順さで,ときには陽気にさえ見える態度で鞭打ちに耐える」ということだ。
ネイサン・ベロフスキー 伊藤はるみ(訳) (2014). 「最悪」の医療の歴史 原書房 pp.194-195
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