海外で経済的困窮に陥っている在留邦人を「困窮邦人」と呼ぶ。所持金を滞在先で使い果たし,路上生活やホームレス状態を強いられている吉田のような日本人のことだ。特にフィリピンではこの困窮邦人が一般的な問題になっており,在留邦人の間でも,その存在はよく知られている。
現在では中国に抜かれ,GDP(国内総生産)世界第3位に順位を落としてしまったとはいえ,未だ経済大国の日本で生まれた国民が,途上国のフィリピンでホームレス生活を送っているという皮肉な現実。世界で最も困窮邦人が多いのが,ここフィリピンなのだ。この国で記者生活を続けるうち,私はその異様とも言える現象に次第に興味を持つようになった。
——異国の地でこんな惨めな状態になって,一体どんな思いで日々生きているのか——。
当初はそんな短絡的な発想でしかなかった。しかし,何か引き付けられるものがあった。最初に断っておくが,私は彼らに同情しているわけではない。取材を続けるうちに同情しなくなった,と言った方が適切かもしれない。
水谷竹秀 (2011). 日本を捨てた男たち:フィリピンに生きる「困窮邦人」 集英社 pp.19-20
PR