困窮状態に陥る要因は人それぞれだ。強盗被害に遭う,ギャンブルで大負けする,ビジネスの投資話にだまされるなどで所持金や全財産を使い果たしてしまう人もいるだろう。だが,外務省や事情に詳しい在留邦人などによると,この国で一般的とされる困窮邦人は,フィリピンクラブ(フィリピンでの一般名称は「カラオケ」)で出会った女性を追い掛けて渡航する日本人男性が圧倒的に多い。大半は50歳以上。日本で誰にも相手にされなくなった自分の前に現れたフィリピン人女性に笑顔でもてなされ,男としての自尊心をくすぐられる。「俺にもまだ輝ける世界がある」と錯覚し,有り金すべてを持って日本を飛び出してしまうのだ。その背景には,家族や友達から見捨てられた孤独感,単純労働の空虚な毎日,多額の借金など自分を取り巻く生活環境に鬱積し,逃げ出したくなるような現実があったのではなかったか。
水谷竹秀 (2011). 日本を捨てた男たち:フィリピンに生きる「困窮邦人」 集英社 pp.21-22
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