思い描いた理想と現実との乖離を受け入れられず,「プライド」だけ保っている。だから若いフィリピン人女性に男としての自尊心をくすぐられると舞い上がってしまい,あと先考えずにこの国まで追い掛けてしまうのではないだろうか。そこで今度は「金持ちの国から来た日本人」という新たな「プライド」が生まれる。それは同時に途上国に対する思いあがりや虚栄心に直結していることに彼らは気づいていない。自ら飛び出した先での困窮生活という醜態を両親や親戚,周囲にさらしてしまうため,今さら日本に帰ることもできない。それは「プライド」というよりただの虚栄心だ。フィリピンで何とか踏ん張って,復活したい。だが,理想と現実は乖離し続けるばかり。その現実を認めたくないがために,滅金で自分を飾り立て,気づいた時には虚しい「プライド」だけが残った。
水谷竹秀 (2011). 日本を捨てた男たち:フィリピンに生きる「困窮邦人」 集英社 pp.232-233
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