アメリカ人家庭には,日本のように「養子縁組は家を継ぐための手段」という考え方は存在しない。「恵まれない子に家庭の愛情を分かち合いたい」「アメリカ人が置き去りにしていった混血児を引き取る義務がある」と主張する夫婦がいることも確かだった。
しかし,一方で,大城は自己中心的な欲求を満たそうとするアメリカ人たちの本音もたくさん見てきた。
大城のもとを訪れる夫婦の中には,「自分の強い信仰心や社会的奉仕心を証明するため,子どもを養子縁組したい」と言う者もいた。「アメリカ本国では資格審査が厳しい。裁判所の審査が緩く,比較的簡単に養子がもらえるアジアで縁組したい」とあっけらかんと言い放つ者もあった。
もっとひどい夫婦は「人形のようにかわいい東洋の少女を帰国前にもらいたい」と公言してはばからなかった。
あの手この手を使って実母やその家族と直接交渉し,専門のケースワーカーの介入を避けようとするのが,こうした養親たちの常套手段だった。
高倉正樹 (2006). 赤ちゃんの値段 講談社 pp.198-199
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