もっとも,中世以来,医療関係者は意見をしょっちゅう変え,最後には,大げさな効用にたどり着いていた。500年近く前に,ディグビーは「体液から毒を除去し,伝染病菌を枯らすので寿命が伸びる」として,水泳を勧めた。歳月がこの誇大広告をさらに増長した。1891年にはあるフランス人医師が,水泳はマスターベーションから肺感染,さらに大腿骨の自然脱臼まで,あらゆるものを治すと発言。それから20年後には,『イギリスの男性的な運動』という人気の高いハンドブックが,スポーツ選手を目指す人たちに,水泳は「神経系統の鎮静にも有効」であると確約した。ほぼ同時期に“経験豊かなスイマー”とだけ身分を明かすアメリカ人が,水泳をする人は「突発性感冒や炎症性疾患にかかりにくく,けっして,もしくはめったに慢性病に苦しまない。身体は引き締まり,皮膚は健康で,生命のすべての機能が健康的な活力で作動する」と記した。締めくくりは1910年のYMCAマニュアルで,「野外での水泳は白髪を防ぐ」と謳っている。
リン・シェール 高月園子(訳) (2013). なぜ人は泳ぐのか?水泳をめぐる歴史,現在,未来 太田出版 pp.67-68
PR