まずはカエルから始めよう。この名人級スイマーの小さな両生類の名は,ディグビーがそのパイオニア的マニュアルに「一級の泳法」とした平泳ぎの脚の動きに「カエル足」として冠されている。平泳ぎ(ブレストストローク)は,腹を下にし,顔を自然に前方に向けた姿勢で泳ぐため,ヒューマン(ストローク)またはチェストストロークとも呼ばれている。300年以上もの間,それはヨーロッパ人とアメリカ人にとって,どこで泳ぐにしろ,事実上,唯一の泳法であった。平泳ぎでベンジャミン・フランクリンはテムズ川を下り,バイロンはヘレスポントスを横断し,ウェブはドーバー海峡を渡った(もっとも,ウェブは,当時は一般的だった顔を水面上に出したままの姿勢で21時間泳いだため,首の後ろに痛みを伴う水膨れができた。また,彼は腕と脚を同時に動かしていた)。
リン・シェール 高月園子(訳) (2013). なぜ人は泳ぐのか?水泳をめぐる歴史,現在,未来 太田出版 pp.84-85
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