一般に「尺度」が有意味であるためには,ある条件をみたすことが必要である.直観的に述べると,「ある測定値」あるいは「測定値間の関係」が特定の数値表現にのみ依存するものは有意味ではなく,特定の数値表現にだけ依存するものではないものが有意味と考えられる.例えば,「A氏の身長が180である」という命題は,有意味ではない.これは,測定単位が指定されていないので,この命題の真偽の判定は,ある特定の数値表現(cm単位か,m単位かなど)に依存するからである.「A氏の身長が180cmである」という命題は,cm単位とm単位などの他の身長を計測する尺度の数値表現間の換算が明確であるかぎりにおいて,有意味である.
また,「今日の東京と大阪の最高気温の比が1.01であった」という命題は,有意味ではない.これは,最高気温をどういう測定尺度の単位で測るかによって,この比の値は変化するからである.最初の例の「180」は測定の次元(長さというdimension)と単位をもつべき数値であるが,次の例の「1.01」は測定値間の関係を表し,また無次元であることに注意する(比の分母と分子が同じ次元をもつのでキャンセルされ,比自体は次元をもたない).
吉野諒三・千野直仁・山岸侯彦 (2007). 数理心理学 心理表現の理論と実際 培風館 p.76
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