ジアルジアが引き起こす病気は軽いものではなく,下痢,鼓腸,腹痛,食欲減退などを伴う。その治療自体も楽なものではない。「国境なき医師団」カナダ支部の事務局長で獣医師のエリン・フレーザーは,ホンジュラスで小規模養鶏の調査をしていた。私が彼女の住む辺鄙な村を訪ねたとき,エリンはほとんど消耗しきっているようだった。おそらくジアルジア症だろうとエリンは言った。そして治療もやはり手荒なものと聞いていたので,何とか「乗り切る」つもりだった。健康な人ではたいてい,ジアルジアは「自己限定的」——しばらくすると自然に消滅する病気を表すのに獣医や医者が使う面白い言い回し——だろうと。でもそれならすべての病気は自己限定的じゃないだろうか?それどころか私たちも自己限定的じゃないだろうか?エリンの指導教官として,私は正直なところ少なからず心配だった。だが彼女は切り抜けることができた。
この病気は「ビーバー熱」と呼ばれてきた。野生のビーバーが持っていることがある——イヌや,ネコや,ウシや,子どもと同様に——のが知られているからだ。「ビーバー熱」という言葉は元々,ハイカーが山の渓流の澄んだ水を飲んで発病したことから造語されたものだ。おそらくビーバーの糞便で水が汚染されていたのだろうと。ほとんどの人は保育園に通う子どもからこれを移される。この年頃の子どもたちは,うんちのあとで手を洗うとは限らないからだ。保育園は大人にとってA型肝炎の大きな感染源でもある。これもまた糞口感染する病気で,北米で拡大を続けている。A型肝炎の影響は,機能免疫系が感染した細胞を攻撃することで引き起こされるが,子どもは免疫系が完全に機能していないので,A型肝炎ウィルスは子どもには必ずしも害を与えない。だが子どもたちがそれを家に持ち帰ると,ママやパパが重症になることがある。
デイビッド・ウォルトナー=テーブズ 片岡夏実(訳) (2014). 排泄物と文明:フンコロガシから有機農業,香水の発明,パンデミックまで 築地書館 pp.98-99
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