先史時代におけるポリネシア人の広汎な進出は,同時代の人類が行なった海洋探検のなかでも,最も飛躍的でめざましい出来事だった。古代人類がアジア大陸からインドネシア諸島経由でオーストラリアとニューギニアへと至る太平洋上の航路は,紀元前1200年まではニューギニア東方のソロモン諸島止まりだった。同じころ,ニューギニア北東のビスマルク諸島に起源を持つとされる人々——ラピタ式として知られる土器を創り出し,海上及び農耕生活を送っていたとされる人々——が,ソロモン諸島東域の開けた海上で1600キロメートル近く波に流され,フィジー,サモア,トンガにまで漂着して,ポリネシア人の祖先となる。ポリネシア人は,羅針盤も,文字も,金属製の道具も持ち合わせていなかったが,航海術と有機堆積物,人骨など,考古学上の証拠が豊富に発見され,放射性炭素年代測定が行なわれたことによって,ポリネシア人たちの広汎な民族進出に関するおおまかな時代と経路が明らかになっている。ポリネシア人たちは,紀元1200年ごろまでに,ハワイ,ニュージーランド,イースター島を結ぶ広大な海上の三角形の中で,居住可能なあらゆる小島に到着していたのだ。
ジャレド・ダイアモンド 楡井浩一(訳) (2005). 文明崩壊:滅亡と存続の命運を分けるもの(上巻) 草思社 pp.137
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