ヨーロッパ人が渡来した当時,島民たちはおもに農夫としての生活を送り,サツマイモ,ヤムイモ,タロイモ,バナナ,サトウキビを栽培しながら,唯一の家畜であるニワトリを飼育していた。イースター島にサンゴ礁や環礁がないということは,大半のポリネシアの島々に比べ,魚類と貝類が食糧として利用される機会が少なかったという意味にほかならない。最初の入植者たちは,海鳥,陸生の鳥,ネズミイルカを捕獲できたが,これらの動物はいずれ減少したり絶滅したりすることになる。その結果,島民たちは炭水化物を過剰摂取し,さらに悪いことに,供給不足の真水を補うためにサトウキビの汁を大量に飲用した。この時代の虫歯の発生率が,現在わかるかぎり,先史人類中最も高いと聞いても,意外に思う歯医者はひとりもいないだろう。おおぜいの子どもたちが,14歳になる前にすでに歯に穴をあけてしまい,20代になると全員が虫歯を持っていた。
ジャレド・ダイアモンド 楡井浩一(訳) (2005). 文明崩壊:滅亡と存続の命運を分けるもの(上巻) 草思社 pp.142-143
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