南東ポリネシア内で交易が行われた時期は,放射性炭素法で年代特定された地層からの出土品をもとに推定できる。ヘンダーソン島の地層から出た加工品を調べたところ,交易が1000年ごろから1450年ごろまで続いていたことがわかった。しかし,1500年までには,南東ポリネシア内でも,マンガレヴァ島を中心として放射状に伸びた線上でも,交易が中止されてしまった。すでにヘンダーソン島の後期の地層には,マンガレヴァ産の貝殻も,ピトケアン産の火山ガラスも,同じく刃物の原料になる肌理の細かい玄武岩も,マンガレヴァやピトケアン産の焼き石用の玄武岩も見当たらない。もはやマンガレヴァ島からもピトケアン島からも,カヌーがやってこなくなったのだろう。ヘンダーソン産の矮小な樹木ではカヌーを製造することができないので,数十人の島民たちは,世界で最も辺鄙で最も暮らしにくい島のひとつに囚われてしまった。そして,われわれの目には解決不能と映る問題に直面することになる。つまり,金属も石灰岩以外の石もなく,どんな輸入品もまったく入手できない状況下で,隆起した石灰岩の礁の上でどう生き延びるかという問題だ。
ジャレド・ダイアモンド 楡井浩一(訳) (2005). 文明崩壊:滅亡と存続の命運を分けるもの(上巻) 草思社 pp.208
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