こうなると,A大学では,これまでと同様のレベルの学生も入学しているものの「いままでよりもできない学生も入学」することになる。B大学,C大学では,これまで獲得できていた成績上位者が,上のレベルの大学に行ってしまうだけでなく,下位の学生が入学してくることになり,「全体のレベルが低下」することになる。これは,どの大学の先生も「これまでよりできない学生」が増えたと感ずることと矛盾しない。これは,
これまでと高校生の学力レベルが全く変わらなかったとしても,大学の入学定員を減らさなければ,大学志願者数が減るごとにどの大学においても学生の学力は下がる
という当然の事実に過ぎない。
この単純なモデルの意味するところは,学力が低下して見えるのは,少子化に連動して大学の定員が減っていないからだ,ということなのである。
注意して欲しいのは,これはたとえば,大学の教員すべてにアンケートをとって,「最近の学生の学力はどうですか」と聞いたとき,全員が「できなくなった」といっているにもかかわらず,学生の学力は集団として何も変化していない,ということなのである。このような場合,個々の意見の平均が全体の質を反映しないのである。
神永正博 (2008). 学力低下は錯覚である 森北出版株式会社 p.38-39.
PR