しかし,ヴァイキングの物語には,そういう恐ろしい部分と同じくらいロマンチックで,もっと本書との関わりが深い部分もある。ヴァイキングは,恐ろしい海賊であると同時に,農夫,交易商人,植民地開拓者であり,ヨーロッパで初めて北大西洋に乗り出した探検家でもあった。ヴァイキングたちが築いた数々の植民地は,それぞれ大きく異る運命をたどっている。ヨーロッパ大陸とイギリス諸島に入植した者は,最終的に地元の人々に同化し,ロシア,イングランド,フランスなど,いくつかの国民国家の形成に携わった。ヨーロッパ人による初の北米大陸入植の試み,ヴィンランドの植民地は,すぐに遺棄されることになった。グリーンランドの植民地は,最も辺境にあるヨーロッパ社会の領地として450年のあいだ存続したが,最終的には消滅する。アイスランドの植民地は,何世紀にもわたって貧困と政治的な難局に苦しんだのち,近年は世界でも屈指の裕福な社会に生まれ変わった。オークニー諸島,シェトランド諸島,フェロー諸島の植民地は,ほぼなんの問題もなく存続した。これらすべてのヴァイキングの植民地は,同一の社会を祖としている。それぞれの植民地が異なる運命をたどったことと,入植者を取り巻くそれぞれの環境とのあいだには,明らかな相関性が認められる。
ジャレド・ダイアモンド 楡井浩一(訳) (2005). 文明崩壊:滅亡と存続の命運を分けるもの(上巻) 草思社 pp.283
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