社会制度についていうと,ヴァイキングはスカンディナヴィア本土から外国に階級制を持ち込んだ。襲撃時に捕らえられた奴隷が最下級,次が自由人,首長が最上級という階層分けで構成されたものだ。ヴァイキングが広汎に進出した時代,ちょうどスカンディナヴィアに統一された大きな王国——これに対するものが,局地的な小さい政治組織で,その頂点にいる首長も“王”と称していた可能性がある——が現われ始めたので,外国に入植したヴァイキングたちも,最終的にはノルウェーの王たちや(のちに)デンマークの王たちと折り合いをつけなければならなかった。とはいうものの,入植者たちは,そもそもノルウェーで王座を狙っていた新興勢力から逃れるために移民となったという経緯もあって,アイスランドでもグリーンランドでも王制を採ることは一度もなく,その支配権は,複数の首長から成る軍閥の手中にとどまっていた。首長たちに所有が許されたのは,自分の船と,貴重で飼育しづらいウシ,さほど珍重されなかった飼育の楽なヒツジなど,ひと揃いの家畜だけだ。首長の従者,家来,賛同者としては,奴隷,自由労働者,小作人,独立した自由人の農夫などがいた。
ジャレド・ダイアモンド 楡井浩一(訳) (2005). 文明崩壊:滅亡と存続の命運を分けるもの(上巻) 草思社 pp.300-301
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