しかし日本は,ドイツとは関係なく同時期にトップダウン方式の森林管理を発展させていたことがわかっている。この事実にも,驚かされる。日本は,ドイツと同様,工業化された人口過密な都市型社会だからだ。先進大国の中で最も人口密度が高く,国全体では1平方マイル(約2.6平方キロメートル)当たり1000人,農地では1平方マイル当たり5000人が住んでいる。これほど過密な人口をかかえながら,日本の面積の80パーセント近くは,人口がまばらで森林に覆われた山々から成り,ほとんどの国民と農業は,国土のたった5分の1に当たる平野に押し込められている。国内の森林は,非常によく保護され,管理されているので,木材の貴重な供給源として利用され続けながらも,範囲をさらに広げつつある。国土が森林に覆われていることから,日本人はよく自分達の島国を“緑の列島”と呼ぶ。この緑の覆いは,見たところ原生林に似ているが,実際には,日本の利用可能な原始の森は300年前にほとんど切り開かれてしまい,再生林と植林地に置き換えられて,ドイツやティコピア島と同じように,細部まできびしく管理されている。
ジャレド・ダイアモンド 楡井浩一(訳) (2005). 文明崩壊:滅亡と存続の命運を分けるもの(下巻) 草思社 pp.37
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