また,バラゲールを環境保護主義者と認めてしまうと,彼の凶悪な特性が環境保護主義のイメージを不当に損なうという懸念もある。しかし,ある友人が言ったように,「アドルフ・ヒトラーは犬が大好きだったし,歯も磨いたけれど,わたしたちが犬を嫌って歯磨きをやめるべきだということにはならない」のだ。また,わたし個人としては,1979年から1996年までインドネシアの軍事独裁政権下で働いた経験を振り返ってみなければならないだろう。わたしは,その独裁政権の政策と私的な事情,特にニューギニアの友人たちに対する仕打ちや,その兵士たちに自分が危うく殺されかけたことなどから,政府を嫌悪し,恐れていた。それゆえ,その独裁政権が,インドネシア領ニューギニアで包括的かつ効果的な国立公園制度を設けていることを知って驚いた。わたしは,民主主義国であるパプアニューギニアで数年間経験を積んだあと,インドネシア領ニューギニアへ赴いたので,凶悪な独裁政権よりも高潔な民主主義政権のほうが,環境政策もずっと進歩的だと思い込んでいた。しかし,真実はまったく逆であることがわかったのだ。
ジャレド・ダイアモンド 楡井浩一(訳) (2005). 文明崩壊:滅亡と存続の命運を分けるもの(下巻) 草思社 pp.115-116
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