先進国の住民が現在享受しているライフスタイルを,あらゆる人が切望した場合,世界にどのような影響が及ぶのかについては,中国が良い具体例を示してくれる。中国は,世界最大の人口と,最も急速に成長する経済を併せ持っているからだ。総生産または総消費とは,人口に,ひとり当たり生産率または消費率を掛けた値を意味する。中国では,巨大な人口のせいでその総生産がすでに高い値を示している。とはいえ,ひとり当たりの生産・消費率はまだきわめて小さく,例えば工業生産される4つの主要金属(鋼鉄,アルミニウム,銅,鉛)のひとり当たりの消費率はたった9パーセントにすぎない。しかし,中国は急速に,先進国並みの経済を達成するという目的に向かってシンポを遂げつつある。もし,中国のひとり当たり消費率が先進国の水準まで上がれば,たとえ世界の他の条件——つまり,中国以外の人々の人口と生産・消費率——がまったく変わらなかったとしても,中国の生産または消費率の上昇だけで,前述の主要金属の場合,(中国の人口を掛け合わせてみると)世界の総生産あるいは総消費が94パーセント増加する。すなわち,中国が先進国の基準に達すれば,全世界の人間による資源利用と環境侵害がほぼ倍増するのだ。ところが,現在の世界の資源利用と環境侵害でさえ,このまま維持できるとは考えにくい。どこかで歯止めが必要だろう。中国の問題がそのまま世界の問題になる最も強い理由は,そこにある。
ジャレド・ダイアモンド 楡井浩一(訳) (2005). 文明崩壊:滅亡と存続の命運を分けるもの(下巻) 草思社 pp.149-150
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