生産性の低いオーストラリアの土壌のもうひとつの特徴は,その問題がヨーロッパからの最初の入植者には認知できないものだったことだ。それどころか,現代世界でおそらく最も背の高い樹木——ヴィクトリア州のギプスランドに自生するユーカリは高さ120メートルに達する——を含む堂々たる広大な森林地に遭遇した彼らは,その外観に惑わされ,この土地が高い生産性を有すると考えてしまった。しかし,伐採者が最初の樹木の現存量(特定の空間内に生存する生物の総体)を取り除き,ヒツジが草の現存量を食べ尽くしてしまったあと,入植者たちは,樹木や草の再成長のあまりの遅さに,また農地の採算性の低さに驚かされ,多くの地域では,農業経営者や牧畜業者が多額の設備投資を行なって,家や柵や納屋を建設したり農地の改良を図ったりした末に,結局は放り出さざるをえなくなった。初期の植民時代から今日に至るまでずっと,オーストラリアの土地利用は,土地の開墾,投資,破産,放棄というサイクルを何度も繰り返してきた。
ジャレド・ダイアモンド 楡井浩一(訳) (2005). 文明崩壊:滅亡と存続の命運を分けるもの(下巻) 草思社 pp.164-165
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