しかし,オーストラリア国内にも,もうひとつの“距離の暴虐”がある。オーストラリアの生産的な地域,あるいは定住者のいる地域は,少ないうえに分散している。アメリカのたった14分の1の人口が,ハワイとアラスカを除くアメリカ本土48州とほぼ等しい面積の中に散らばって住んでいるのだ。その結果,国内の輸送が上昇し,先進国としての都会生活の維持を高価なものにしている。例えば,オーストラリア政府は,国内のあらゆる場所のあらゆる家庭と企業のために,国内電話網への電話接続料を負担している。たとえ,最寄りの電話局から数百キロ離れた奥地の電話局への接続でもだ。今日では,オーストラリアは世界で最も都市化された国であり,人口の58パーセントがたった5つの大都市に集中している——1999年時点で,シドニーに400万人,メルボルンに340万人,ブリスベンに160万人,パースに140万人,アデレードに110万人。その5つの都市のうちで,パースは世界で最も孤絶した大都市であり,隣の大都市(約2000キロ東に位置するアデレード)までの距離が最も遠い。オーストラリアの最大手企業,国営航空会社カンタス航空と電気通信会社テルストラの2社が,そういう距離の橋渡しを事業の基盤としていることは,けっして偶然ではない。
ジャレド・ダイアモンド 楡井浩一(訳) (2005). 文明崩壊:滅亡と存続の命運を分けるもの(下巻) 草思社 pp.170
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