つまり,オーストラリアの林産物貿易には,二重の皮肉が存在する。第1に,先進国の中でも特に森林の少ないオーストラリアが,縮小する森林を伐採し続け,生産物を日本へ輸出しているが,日本は先進国の中でも国土に占める森林の割合が最も高く(74パーセント),その数字は更に伸びつつある。第2に,オーストラリアの林産物貿易は,事実上,安価な原材料を輸出し,それが別の国で高価かつ付加価値の高い最終製品に加工されたあと,その最終製品を輸入することで成り立っている。そういう特殊な種類の不均衡が見られるのは通常,先進国同士の貿易関係ではなく,経済発展も工業化も遅れた交渉に不慣れな第三世界の植民地が,先進国と取引する場合だろう。先進国は,第三世界の国々を利用し,その原材料を安価で買い求め,自国でその材料に付加価値を与え,高価な製品を植民地に輸出することに長けているからだ——日本のオーストラリアへのおもな輸出品は,車,通信機器,コンピュータ機器であり,オーストラリアの日本への他のおもな輸出品は,石炭と鉱物。つまり,オーストラリアは,貴重な資源を気前よく差し出しながら,その代価をほとんど受け取っていないように見える。
ジャレド・ダイアモンド 楡井浩一(訳) (2005). 文明崩壊:滅亡と存続の命運を分けるもの(下巻) 草思社 pp.197
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