新石器時代の人類が動物の乳を集めるようになったのは,人間の乳幼児に与えることを目的としていたのだろう。ミルクは成人よりも乳幼児にとって重要な食品だったからに他ならない。それはなぜか。ミルクは成分としてラクトース(乳糖)を高い濃度で含んでいる。しかしその消化には胃や腸の中で酵素のラクターゼを作る必要がある。人間を含む全ての哺乳類は生まれたばかりの時には自然にラクターゼを作っており,それによって新生児は母乳を消化することができるのだ。しかし,ラクターゼの生成は通常離乳後の哺乳類では減少し,成人になるまで続くことはない。したがって,人間の大人がミルクを飲んだ時,ラクトースは消化されないままで残り,腸内の微生物環境を破壊し,激しい下痢,腸内ガスの発生やそれによる膨満などのような顕著な症状を引き起こす。
ポール・キンステッド 和田佐規子(訳) (2013). チーズと文明 築地書館 pp.24
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